車が駐車場に入った瞬間、麺を茹でます——常連さんの、うれしさと難しさ

厨房の小窓越しに見える、夕暮れの駐車場に入ってくる一台の車

今日は、常連さんの話をします。うれしい話と、ちょっと反省の話、両方です。

「あ、あの人だ」

うちの厨房からはね、場所にもよるんですけど、駐車場が見えるんですよ。

で、車が駐車場に入ってきた瞬間——「あ、あの人だ」って、分かるんです。 車で分かる。停め方でも分かる。

常連さんって、頼むものが、だいたい毎回同じなんですよ。だから、どうなるか。

食券を買う前に、もう麺を入れちゃうときがあるんです(笑)。

車が駐車場に入る。麺が湯に入る。ご本人が店に入ってきて、食券を買って、席に着く。——着席から30秒くらいで、ラーメンが出ることがある。

はじめて見た人は、ちょっとびっくりしますよね。「え、もう?」って。でも、種はこれです。注文を聞く前から、作り始めてる。

これができるのは、その人が何十回も通ってくれて、「この人は、いつもこれ」っていう積み重ねがあるからなんですよ。言ってみれば、常連さんとうちの間にだけ成立する、ちょっとした芸当です。こういうの、商売やってて、けっこう楽しい瞬間なんですよね。

熱湯の鍋に、生麺を入れる瞬間の手元

常連さんは、話したがる

で、常連さんっていうのはね、けっこう話したがるんですよ。

顔なじみになって、世間話をして、ちょっと笑って帰っていく。ありがたいことです。それも含めて、うちの店に来てくれてるんだと思う。

……ただね。ここに、ひとつ、大きな注意点があるんです。

隣のお客さんから、どう見えるか

常連さんとベチャベチャしゃべってるとね——隣で食べてる、他のお客さんの気分が悪いんですよ。

で、これ、実際にあった話なんですけど。Googleの口コミに、書かれたことがあるんです。

「店主はしゃべってばかりで、全然ラーメンを作らない」——みたいなことを。

こっちの言い分としてはね、質問されたことに、答えてただけなんですよ(笑)。自分からベラベラしゃべってたわけじゃない。でも——そんなの、他のお客さんには関係ないんですよね。

隣の席から見えるのは、「常連とおしゃべりに夢中の店主」の姿だけ。どっちが話しかけたかなんて、誰も見てない。 見え方が、すべてなんです。

一人と話してる姿も、全員への接客

これ、反省を込めて言葉にすると、こういうことなんだと思います。

誰か一人と話してる姿は、その場にいる全員に見られてる。 つまり、一人との会話も、他の全員への接客の一部なんですよ。

前に「挨拶は、あなたの存在に気づいてますよっていう合図だ」って書きました。逆に言うとね、常連さんとだけ盛り上がってる店主は、他のお客さんに「あなたの存在には気づいてません」っていう合図を、知らずに出しちゃってるんです。

初めて来たお客さんこそ、心細いんですよ。そこで店主が身内ノリだったら、「ここは常連の店なんだな。自分は場違いだな」って感じさせてしまう。——それで足が遠のいたら、その人は一生、常連さんにならない。

だから、常連さんと話すときこそ、気をつける。手は止めない。長くなりそうなら、笑顔で切り上げる。常連さんを大事にすることと、常連さんとだけ盛り上がることは、別物なんですよね。

カウンターに並んで食べるお客さんたちの後ろ姿と、厨房で調理する店主

で、その口コミ、どうしたかというと

最後に。その「しゃべってばかり」の口コミ、どう対応したか。

——はい。前回の記事に書いたとおりです。まずは、放置してます(笑)。

ムカッとした熱が冷めるまで、置いておく。冷めたら、ちゃんと返信します。反省すべきところは反省として受け取って、未来のお客さんに向けて、落ち着いた言葉で。

ラーメンは熱いうちに。返信は、冷めてから。——さっそく実践中です(笑)。