「店長って、焦らないですね」——僕が、エレガントに働く理由

湯気の立つ厨房で、背筋を伸ばして静かに立つ店主の後ろ姿

今日は、最近あらためて思ったことを書きます。

経営者は、常に余裕がないとダメだ——っていう話です。

余裕がないと、許せなくなる

余裕がないとね、ちょっとしたことが、許せなくなるんですよ。

スタッフの小さなミス。ふだんなら「ああ、大丈夫だよ」って言えることに、イラッとする。ゆっくり教えればいいものを、つい言い方がきつくなる。

逆に、自分に余裕があると、ちゃんと対応できるんです。「それは大丈夫」って笑って言えるし、落ち着いて教えられる。

——これ、怖いことだと思いません?

同じミスなのに、こっちの状態ひとつで、対応が変わっちゃうんですよ。相手は何も変わってないのに。前に「対応は相手の反応で決める」って書きましたけど、その判断がまともにできるのは、こっちに余裕があるときだけなんです。余裕がなくなった瞬間、人は公平じゃいられなくなる。

だから僕は、余裕を「あったらいいもの」じゃなくて、**「なきゃいけないもの」**だと思ってます。

余裕には、2種類ある

で、その余裕なんですけど、2種類あると思ってるんですよ。

心の余裕と、体力の余裕。

この2つ、実はつながってます。体力が削れてるとき、心の余裕だけ保つのって、ほぼ無理なんですよ。疲れてるときにニコニコできる人、いないでしょ(笑)。

前に、朝7時から深夜1時まで働いてた時代の話を書きました。あのころの僕に、余裕なんてあったわけがないんです。仕込みを前倒しして、帰れる時間を作って——あの改善は、時間を作った話であると同時に、余裕の土台を作った話だったんですよね。

体力の余裕が、心の余裕を支えてる。順番があるんです。

「店長って、焦らないですね」

スタッフにね、よく言われるんですよ。

**「店長って、焦ることないですね」**って。

……ふふ。実はこれ、意識的にやってます。

正確に言うと、「焦ってるように見える仕事」を、しないようにしてるんです。

高級ホテルのロビーを、トレーを持って歩くスタッフの後ろ姿

高級ホテルのスタッフを、想像してみてください

僕がお手本にしてるイメージがあって。高級ホテルのスタッフなんですよ。

あの人たち、絶対に忙しいはずなんです。次から次に呼ばれて、やることが山ほどあって。

なのに——どこか、余裕があるように見えるじゃないですか。

バタバタしてない。ガチャガチャしてない。汗だくで走り回ったりしない。「かしこまりました、すぐにお持ちいたします」って、落ち着いた声で、すっと動く。

忙しさと、焦りは、別物なんですよ。あの人たちは忙しい。でも、焦って見えない。

僕はああいう働き方を、**「エレガントな働き方」**って呼んでます。で、厨房でそれを意識してるんです。ラーメン屋のおやじが「エレガント」って(笑)。でも、本気です。

なんで、そこまでするのか

理由は2つあります。

ひとつは、焦りは、うつるから。

店主がバタバタしてると、スタッフもバタバタし始めるんですよ。厨房がガチャガチャすると、その音と空気は、カウンター越しにお客さんまで届きます。逆に、店主が落ち着いてると、店全体が落ち着く。店の空気の源流は、たぶん僕なんです。

もうひとつは、さっきの話です。余裕を持って働いてると、スタッフに優しく接することができるから。

エレガントに動いてる僕は、ミスにも「大丈夫だよ」って言える。バタバタしてる僕は、たぶん言えない。だから、エレガントでいることは、かっこつけじゃなくて——人に優しくあるための、準備なんですよ。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

「余裕なんて、暇だから持てるんでしょ。本当に忙しかったら無理ですよ」

——これ、逆なんですよ。順番が。

余裕って、「あるから出る」ものじゃなくて、「出すから生まれる」ものなんです。

誤解しないでほしいんですけど、ゆっくり動くわけじゃないんですよ。動きは、むしろ速い。ただ、動きから無駄をそぎ落とすんです。バタつかない。ガチャガチャ音を立てない。動作をひとつずつ、きれいに終わらせる。——速いのに、焦って見えない。それが洗練なんです。

そうすると不思議なもので、心のほうが後からついてくるんですよ。焦った動きをすれば心も焦るし、無駄のない動きをすれば心も静かになる。体が先、心が後。

それでも追いつかないくらい忙しい日は、もちろんあります。でもそれは「余裕が持てない日」じゃなくて、**「仕組みが追いついてない日」**なんです。だから仕込みを前倒しするし、券売機に働いてもらうし、シフトを組み直す。余裕は、根性じゃなくて仕組みで作るものなので。

カウンター越しに、湯呑みへゆっくりお茶を注ぐ手元

余裕は、優しさの原資です

まとめます。

余裕がないと、人はちょっとしたことが許せなくなる。だから経営者は、余裕を持たなきゃいけない。

余裕には心と体力の2種類があって、体力が土台。そして心の余裕は、焦って見える仕事をしないことで、自分から作りにいける。

高級ホテルのスタッフみたいに。忙しくても、エレガントに。

——結局ね、余裕って、自分のためのものじゃないんですよ。余裕は、周りの人に優しくするための、原資なんです。

スープの仕込みと同じで、朝いちばんに火にかけておかないと、営業中には間に合わない。優しさも、余裕っていう下ごしらえがないと、出したいときに出せないんですよね。