「その値段じゃダメだ」——僕が、開店前に折れた話
2026-07-29

失敗談を書きます。……と言いつつ、正確には**「失敗しかけた話」**です。実際には失敗してない。でも、あのまま突っ走ってたら、確実に失敗してたっていう話。
僕は、強気でした
開店の準備をしてたとき、僕はかなり強気の値段設定でいこうとしてました。
理由はあります。前の店で、それなりに結果を出してきた実感があったんですよ。十年やって、店長までやって、味には自信があった。
だから、こう思ってたんです。**「うまければ、多少立地が悪くたって、お客さんは来る」**って。
……いま書くと、なかなかの自信家ですね(笑)。でも当時は本気でそう思ってました。安売りする理由なんてない、と。

「いきなり強気の値段でやっちゃダメだ」
そんなとき、先輩の経営者の方から、はっきり言われたんです。
「それはダメだ。いきなり強気の値段でやっちゃダメ。まずは安くやれ。」
続きは、こうでした。
「安く設定して、たくさんのお客さんに来てもらえ。一年目で儲けることを考えるな。 まずはファンになってもらえ。ここのラーメンの味を、知ってもらえ」
……正直に言うと、その場ですぐ「はい、そうします」とはなりませんでした。だって、自分がやってきたことの積み重ねを、否定された気にもなりますからね。
でも、考えました。で、僕は——値段を下げることにしたんです。

結果、どうなったか
結果的に、うちは「安くておいしい」っていう評判をいただくことができました。それが、最初の土台になったんです。
今ならわかります。あの先輩が言ってたのは、値段の話じゃなかったんですよ。順番の話だったんです。
味に自信があるなら、なおさら「まず食べてもらう」ことが先。食べてもらわないと、その自信は、一円の価値もない。強気の値段っていうのは、まだ誰も味を知らない段階で、入口を狭くする行為だったんですよね。
「うまければ来る」——これ、半分正しくて、半分間違ってます。正しくは、**「うまいと知ってもらえれば、来る」**なんですよ。この「知ってもらう」の一段を飛ばしてたのが、当時の僕でした。
あのまま強気の値段でオープンしてたら、どうなってたか。お客さんは少なくて、評判も広がらなくて、「立地が悪いからだ」って言い訳しながら、じわじわ苦しくなってたと思います。——これ、失敗ですよね。 実際には起きなかったけど、確実にそうなってた。
それで、値段はどうなったか
続きも書いておきますね。
開店当初、僕のラーメンは700円台でした。先輩の言葉どおり、安く出したわけです。
そこから何年か経って、今は900円ほどでやってます。それでも、お客さんはちゃんとついてきてくれてます。
これが、あのときの答えなんだと思うんですよ。
先に「安くておいしい」で味を知ってもらったから、値段を上げても、お客さんは離れなかった。順番を守ったから、あとで上げられたんです。もし逆——最初から強気の値段でいってたら、そもそも知ってもらえないまま、値段だけ高い店になってた。
ちなみに正直に言うと、今の値段、もうちょっと上げてもいいかなとは思ってます。原価はどんどん上がってますからね。ただ、今は上げてません。あの「安くておいしい」で来てくれた人たちの顔が、まだちゃんと浮かぶので。
——ここは、僕がまだ答えを出せてないところです。いつか、値上げの記事も書くかもしれません。
信念を、一回だけ引っ込めた
このブログ、僕はずっと「自分のやりたいようにやる」って書いてきました。前の記事なんて、まさに「雇われ店長では、やりたいようにできないから独立した」って話ですからね。
でも、あのときだけは。自分の信念を、ぐっと一回、引っ込めたんです。
先輩の言うことを、聞いた。自分より長くやってる人の言葉を、素直に、受け取った。
……で、今になって思うんですけど。これ、僕がこのブログでさんざん書いてきた**「素直さ」**の話、そのまんまなんですよ。
僕は面接で「素直に受け取れる人が伸びる」って書きました。注意を素直に受け止められる人が伸びる、とも書きました。じゃあ僕自身はどうだったかというと——開店前の僕が、まさにそれを試されてたんですよね。
あそこで「いやいや、自分は今までやってきたのがあるから」って突っぱねてたら。僕は、自分がスタッフに求めてることを、自分ではできない人間だったってことになる。
折れるところと、折れないところ
だから今は、こう思ってます。
信念って、全部を貫くことじゃないんです。 どこを貫いて、どこを一回預けるか。その見極めのことなんですよ。
味への向き合い方、スタッフへの向き合い方——ここは、誰に何を言われても、たぶん変えません。それが僕の店の芯なので。
でも、「順番」や「やり方」の部分は、先を行ってる人のほうが、圧倒的に見えてる。ここまで意地を張ると、ただの頑固者になっちゃうんですよね。
あのとき折れられたことが、今のうちの店を作ったと思ってます。ありがたい話です。
——というわけで、「失敗しなかった失敗談」でした。でも僕の中では、これがいちばん大事な失敗談なんですよ。気づかなかったら、失敗してたことにすら気づかないままだったので。