「嫌われてもいいかな」——優しい店長の先に、幸せはたぶんない
2026-07-12

最近ね、ちょっと思ってることがあるんです。
嫌われても、いいかな、って。
……いや、開き直りじゃなくてね(笑)。スタッフに、の話なんですけど。今日はそのことを、正直に書かせてください。
僕は、口うるさい店長です
ラーメンのクオリティを保とうとするとね、どうしても、細かいことを言うことになるんですよ。
湯切りの水。盛り付け。チャーシューの、肉と脂身のバランス。——「そこまで見てるの?」ってところまで、見てるし、言います。
で、細かいことを言えば言うほど、当然、口うるさい店長になっていくわけです。いい顔は、されません。前に書いたとおり、注意するって、こっちだってしんどいんですよ。それでも言う。言い続ける。
そうするとね、ふと、思うわけです。「このままだと、嫌われるなあ」って。
で、考えた結果が、冒頭のあれなんです。嫌われても、まあ、いいかな、って。
店長には、ふたつの道がある気がしていて
これ、分かれ道だと思うんですよ。
ひとつは、優しい店長の道。細かいことは言わない。多少の雑さには目をつぶる。スタッフは伸び伸び働けて、店長は好かれる。……いいですよね、平和で。
もうひとつは、口うるさい店長の道。クオリティのために、細かいことを言い続ける。空気は時々ピリッとするし、たぶん、裏で「めんどくさ」って言われてる(笑)。
で、僕が考えたいのは——それぞれの道の"先"に、何が待ってるかなんです。
優しい店長の先に、あるもの
甘くするってことは、クオリティの低いものを、お客さんに出すってことなんですよ。ここ、ごまかしようがないんです。
クオリティが下がれば、お客さんは、静かに離れていきます。売上は上がらない。売上が上がらなければ——時給も、上げてあげられない。
つまり、優しい店長の店ってね、スタッフは気持ちよく働けるんだけど、給料はずっとそのままなんです。
「優しくて、いい店長なんだけどね、給料は安いんだよね」——その先に待ってる幸せって、おそらく、ないと思うんですよ。
口うるさい店長の先に、あるもの
逆にね。細かいことを言い続けて、クオリティが保たれると、お客さんが喜んでくれる。喜んでくれたら、また来てくれる。また来てくれたら、売上になる。
で、売上が上がったら——時給を上げられるんです。
僕、実際にやってます。時給を上げたり、多めに払ったり。今月は売上が良かったなって月には、別でボーナスを出したりもします。
だってね、そのために口うるさくしてるんだから。厳しさの"回収先"は、スタッフの給料なんですよ。ここがつながってないと、ただの嫌なおっさんですからね(笑)。
ちなみに、いちばん厳しく言ってるのは
チャーシューの話をしましたけどね。実は、僕がいちばん口うるさく言ってるのは、料理のことじゃないんです。
日頃の、挨拶と返事。
自分でも、うるせえなあって、分かってるんですよ(笑)。でも、ここだけは譲れなくて。
挨拶とか返事ってね、つきつめると——相手を、心地よくさせるためのものなんです。逆に言えば、雑な挨拶、雑な返事は、目の前の相手を、ちょっと不快にさせるんですよ。
想像してほしいんですけど。朝、出勤してきて、最初の「おはようございます」が雑で、その瞬間に、いちばん身近な仲間を不快にさせてる。——その状態のまま、のれんを出して、お客さんを迎えるわけです。……無理があると思いません?
仕事って、何かって言うとね。お客さんの側に立って考えて、動いて、喜んでもらう。その対価として、お金をいただく——これが本質だと思うんです。お客さんを幸せにするのが商売なのに、その手前で、いちばん近くにいる人を不快にさせてるようじゃ、話にならないんですよ。
だから僕にとって、挨拶と返事は、マナーの話じゃなくて——仕事そのものの話なんです。
で、もうひとつ。これはね、その子の"先"のためでもあるんですよ。挨拶と返事がちゃんとしてる人ってね、うちを卒業して、別の会社に行ったときにも、「お前、ちゃんとしてるな」って思われるんです。それって、その子が一生使える財産じゃないですか。
でも、これ、言われてる本人は、たぶん気づかないんですよね。「うるせえな、店長」くらいに思ってると思う(笑)。
じゃあ、いつ気づくか。——自分が、教える側になったときです。
何年かして、就職して、後輩ができて、いざ自分が教える立場になったとき。挨拶とか、返事とかを注意してる自分に、ふと気づいて——「あれ。私、あの時の店長と、同じこと言ってる」って。
そこで初めて、届くんですよ。何年も、遅れて。
だから、そういうのって、大事なんだなあって思うんです。厳しさの回収先は、給料だけじゃなくて——その子の、何年か先にも、あるんですよね。

結局、何のために働いてるのか
きれいごとを抜きにして言いますね。
働く理由って、いろいろあるけれど——「給料を得たい」っていうのが、実際、いちばん根っこにあると思うんです。僕だってそうです。だから、自分の店の売上を上げて、自分の手取りも増やしたい。スタッフにも、多く払いたい。両方です。両方あって、いいんです。
そう考えるとね、スタッフへの優しさって、2種類あることになるんですよ。
態度で払う優しさと、給料で払う優しさ。
優しい店長は、態度で払う。僕は——嫌われてもいいから、給料で払いたい。

「嫌われてもいい」は、「どうでもいい」じゃない
最後に、ひとつだけ。
嫌われてもいい、って言いましたけど、それは「スタッフがどうでもいい」って意味じゃ、ぜんぜんないんです。むしろ逆で。
怒鳴らない。人前で恥をかかせない。いいことは、ちゃんと評価する。そこは変わらず、僕の責任として、やります。そのうえで——細かいことを言って、その場で少し嫌われるのは、もう、引き受けようと思ってるんです。
「好かれる店長」になるのは、あきらめました。
そのかわり、「あの店で働くと、ちゃんと稼げるんだよね」って言われる店長に、なりたい。
で、欲を言えばね。何年かたったスタッフの記憶に、ふたつだけ残ったらいいなと思ってるんです。
「あのとき、ちゃんと払ってもらえたなあ」——と、
「あの店長の言ってたこと、今なら、わかるなあ」。