「お釣り、忘れてますよ」——今日、お店で見た、ちいさないい光景

券売機のある券売機式のラーメン店。手前にしょうゆラーメンの丼、奥で券売機の前に立つお客さん

今日はね、ちょっと、いい話を書かせてください。

これまで、人を見るとか、注意するとか、わりと"厳しめ"の話ばっかり書いてきたんですけど。今日はお店で、なんだか胸があったかくなる光景を見たので、それを。

うちのお店、券売機なんですけどね。お客さんがね、券売機で食券を買ったあと、お釣りを取り忘れて、席に着いたんですよ。券売機のお釣り口に、小銭が、ちょこんと残ったまま。

そしたら、それに気づいた、別のお客さんが——「これ、忘れてますよ」って、わざわざ、声をかけてくれたんです。

で、そのお釣りが、こう、お客さんからお客さんへ、手渡しで回っていって。途中で受け取った人が、「あれ? ……これ、僕のじゃないな」って、首をかしげて(笑)。よく見たら、その人の、さらにもうひとつ前にいたお客さんのものだったんですよ。それで、ちゃんと、本当の持ち主のところに、戻っていきました。

僕、それを厨房から見てて。なんか、いいなあ、って思っちゃって。

券売機の前で、お釣りの小銭を、手から手へ渡す瞬間

たかが、お釣り。でもね。

金額にしたら、数百円ですよ。たぶん、忘れた本人だって、気づいてなかったかもしれない。

でもね、そこにいた人たちが、誰ひとり「自分には関係ない」って顔をしなかったんです。「これ、あの人のだ」って、ちゃんと、つないでくれた。それが、すごく、よかったんですよね。

僕、ふだんは、スタッフの返事がどうとか、容器のすすぎ方がどうとか、細かいことばっかり言ってる人間で。正直、自分でも「めんどくさい店主だなあ」って思うこと、あるんです。

でも、こういう光景を見るとね——ああ、そうだ、って、思い出すんですよ。僕が守りたかったのって、たぶん、こういう"空気"なんだって。

お店って、僕ひとりじゃ、つくれないんです

一杯のラーメンは、何人もの手でできてる——って、何回か書きました。でもね、それだけじゃ、なかったんですよね。

お店の"空気"って、来てくれるお客さんも、一緒につくってくれてるんです。今日の、あのお釣りを回してくれた人たちみたいに。

僕が厨房で、必死にスープと向き合ってる間に。気づかないところで、お客さん同士が、こんなあったかいことを、してくれてる。

——実はね、正直に言うと。**こういう"空気"のお店にしたいなあ、って、僕、ずっと思ってたんです。**お客さんが、お客さんに、自然とやさしくなれる。そういう場所。それが今日、ふっと、目の前で起きて。ああ、ちょっとだけ、近づけたのかな、って。

それを思うとね、なんか、また、がんばろうって思えるんですよ。

営業後の、湯気が残る静かなラーメン店のカウンター

だから今日は、ただ、それだけの話です。

「お釣り、忘れてますよ」って言ってくれた、どこかの誰か。——ありがとうございました。また、来てくださいね。