「注意する側だって、しんどいんですよ」——ある日の、洗浄機の前で

ラーメン店の洗い場。シンクのそばに、洗ったプラスチック容器と丼が積まれている

前回まで、人を「見る」「採る」「育てる」っていう話を書いてきました。今日はね、ちょっと角度を変えて——「注意する」っていう話を、僕の側の本音で書かせてください。

うちの店、食器洗浄機を使ってるんです。便利なんですけどね、これがたまに、中でプラスチックの容器が、ひっくり返っちゃってることがあって。

ひっくり返ったままだと、その容器の中に、洗剤が残ってる可能性があるんですよ。これ、お客さんの口に入るものを入れる容器ですからね。だから、もしひっくり返ってたら、念のため、水でもう一度すすぐ。うちの、ちっちゃなルールです。

で、ある日。それがちゃんとできてないことがあって。僕、そのスタッフに言ったんです。「これ、ひっくり返ってたら、ちゃんとすすがないとダメだよ」って。

そしたらね——その子、こう、不機嫌そうな顔して、ふいっと去っていったんですよね。

たぶん、たいしたことじゃない。でもね。

返事は、一応したんです。でも「はい」じゃなくて、「……はい」。あの、語尾に「めんどくさ」がべったり乗ってる感じ、わかります?

正直に言いますね。僕、あれが、ほんとに苦手で。

注意するのって、こっちだって気をつかうんですよ。言い方を選んで、タイミングを見て、それでも言う。良くなってほしいからね。なのに、不機嫌な態度で返されると——**うわ、また、って思っちゃうんです。**こっちが正しいこと言ってるはずなのに、なんでか、こっちの気分が悪くなる。変な話ですよね。

シンクで、プラスチック容器を水ですすぐ手元

これがね、何回も続くと

一回ならいいんです。誰だって、機嫌の悪い日くらい、ありますからね。

でも、これが何回も、何回も続くとね——注意する側が、ほんとに、嫌になっちゃうんですよ。

「ああ、また、あの顔されるのか」って思うと、だんだん、言うのが億劫になってくる。「もう、いっか」って、見て見ぬふりしたくなる瞬間が、正直、あるんです。

これ、前にも書いたんですけどね。雑な受け答えが、周りの「教えてあげたい」って気持ちを、ちょっとずつ削っていく、っていう話。注意もね、まったく同じなんですよ。不機嫌な受け取り方って、相手の「言ってあげよう」っていう気持ちを、じわじわ、でも確実に、削っていくんです。

で、いちばん損するのは——たぶん、注意された本人なんですよね。だって、そのうち、誰もその人に注意してくれなくなるから。注意されなくなったら、人って、伸びなくなるんですよ。これ、けっこう怖い話で。

注意される側ってね、こっちの気持ちを考えてないんです

たぶんね、注意される側の人って、"注意する側の気持ち"を、あんまり考えてないんですよ。こっちがどれだけ迷って、言葉を選んで、それでも勇気出して言ってるか。そこまでは、なかなか想像が向かないんですよね。

でもね、見てると、わかるんです。「ああ、この子はちゃんと受け止めてるな」「この子は、表面だけだな」って。

注意したとき、まっすぐこっちの目を見て、「はい」って受け取る人。逆に、口では「はい」って言いながら、目をそらして、話をふわっと逸らして、その場をやり過ごそうとする人。——この差がね、そのまんま、伸びる・伸びないの差になるんですよ。

おもしろいのが、これ、年齢も立場も、関係ないってこと。若い子でも、まっすぐ受け止める子もいれば、その逆もいる。長くやってる人でも、おんなじ。差が出るのは、いっつも「受け止め方」なんです。

注意される側にも、"態度"があるんですよ

スキルとか、能力とか、そういう話じゃないんです。

注意されたとき、せめて、まっすぐ「はい」って受け取る。不機嫌を、顔や態度に出さない。ほんと、それだけでいいんですよ。たったそれだけで、注意した側は「ああ、言ってよかった」って思えるし、「この人には、また言ってあげよう」って思える。

注意される側の態度ってね、実は——注意する側への、ちっちゃな思いやりなんですよ。

で、それが自然にできる人。つまり、**素直に受け取れる人が、結局、いちばん伸びるんですよね。**何回も書いてますけど、ほんと、これに尽きるんです。

……と、ここまで言うとね、こう思いますよね

正直に、自分へのツッコミも書いときます。

ひとつは、「注意する側が、なんでそこまで気をつかわなきゃいけないの? 偉そうに」って声。

わかります。立場が上なんだから、こっちに気をつかわせるなよ、ってね。でも——人を動かすって、結局そういうことなんですよ。立場とか関係なく、人の気持ちは、気持ちでしか動かない。だから僕も、ちゃんと気をつかってます。お互いさま、なんですよ。

もうひとつ、「注意されて不機嫌になるのなんて、自然な感情でしょ」って声。

これも、そのとおり。注意されて気分のいい人なんて、いませんよ。僕だって、誰かに言われたら、一瞬はムッとします。人間だもの。**でもね、それを"態度に出すか、出さないか"。**そのほんの少しの差が、長い目で見ると、その人の周りに「教えてくれる人」が残るか、いなくなるかを、分けちゃうんです。

で、最後に。「それ、ただの被害者意識じゃないの?」って言われたら——うーん、そう見える部分も、あるかもしれません。だから僕も、言い方には気をつけてます。怒鳴らない、人前で恥かかせない。そこは、僕の責任。そのうえで、受け取り方も、ほんの少しだけ意識してもらえたら——っていう、お互いの話なんですよ。

営業を終えた、静かなラーメン店のカウンター

それでもね、僕は言い続ける

こうやって書くと、めんどくさい店主だなあ、って思われるかもしれません。

でもね、一杯のラーメンって、何人もの手でできてるんです。洗浄機ひとつ、容器ひとつ、そのぜんぶが、お客さんの口に入る一杯につながってる。だから僕は、嫌われても、不機嫌な顔されても、たぶん、言い続けるんだと思います。

ただ——願わくば、ですよ。その「はい」が、ほんの少しだけ、まっすぐだったらなあ、って。それだけで僕は、きっと、もっと気持ちよく、あなたに教えられるんですよ。