「ミスはしていません」——40代の彼を、僕が採用しなかった理由

湯気の立つ、一杯のラーメン

採用の面接をしてると、たまにあるんです。「この人、なんでどこの職場でも続かなかったんだろう」っていうのが、ほんの数十分で、くっきり見えちゃう瞬間が。

今日は、僕が実際に見送った、ひとりの応募者の話をします。誰かを責めたいわけじゃないんです。ただ、この人と向き合ったことで、「人を見る」ってどういうことなんだろう、っていうのを、自分のなかであらためて言葉にできた。そういう話です。

採用で悩んでる方、とくに小さなお店やチームで人を雇ってる方に、何か届いたらうれしいです。

履歴書の段階で、もう違和感があった

その人は、求人を見て応募してきた、40代の男性でした。

履歴書に目を通した、いちばん最初の段階で、僕はちょっとした違和感を覚えたんです。職場を、転々としている。職歴が、やけに多い。

あ、勘違いしないでくださいね。転職が多いこと自体が悪い、なんて思ってないんです。今は、仕事を変わっていくのが当たり前の時代じゃないですか。人にはいろんな事情があるし、それ自体は、いいことだと思ってます。

正直に言うと、引っかかったのは、回数そのものじゃなかった。じゃあ何だったのか——それが自分でもうまく言葉にできないまま、とりあえずその違和感は保留にして、面接に来てもらうことにしました。あとになって、その正体が「辞め方」だったと分かるんですけど、それはもう少し先の話です。

面接で、僕がいちばん見てるもの

面接で僕がいちばん大事にしてるのは、実は、経歴やスキルじゃないんです。

お店に入ってきたときの、挨拶。目線。声。そのあとの、歩き方。椅子に座ってるときの、姿勢。こういう、本人が意識してない部分にこそ、その人が出る。そう思ってるからです。

その人の歩き方は、のっそりしてて、どこか気だるそうでした。失礼な言い方かもしれないけど、正直、「あ、この人はテキパキ動くタイプじゃないな」って、最初の数歩で思っちゃったんです。

「言ってるようで、何も言ってない」

話しはじめてからも、その印象は、変わりませんでした。

僕、いろいろ質問するんです。「趣味は何ですか?」って聞くと、「うーん、趣味かぁ……特にないですね」。「休日は何してるんですか?」と聞くと、「うーん、休日は、特に家にいますね」。

会話は、いちおう成立してる。でも、何も返ってこないんですよ。言ってるようで、何も言ってない。その手応えのなさが、ずーっと続くんです。

机に置かれた、罫線ノートとペン

僕が必ず聞く質問——「前の仕事は、なぜ辞めたんですか?」

面接で、僕が必ず聞くようにしてる質問があります。

「前の仕事は、なぜ辞めたんですか?」

この答えで、その人が見えることが、多いんです。

その人は、こう答えました。「前の上司と、うまく合わなくて。なぜか、嫌われてたんですよね」。

で、僕はもう一歩、聞いてみたんです。「じゃあ、その前の職場は、なぜ辞めたんですか?」

「指導してくれる人が、ちゃんと指導してくれなくて。たぶん、僕のことが嫌いだったんだと思います」

——ああ、なるほどな、と。

ここで、自分のなかで、点と点がつながりはじめました。辞めた理由が、ぜんぶ「相手のせい」になってる。自分の側に、原因を見てないんです。

「僕は、何も失敗してません」

もう一歩だけ、踏み込んで聞いてみました。

「そんなに嫌われてたなら、何か失敗でもしたんですか?」

返ってきた答えが、これです。

「いえ、僕は何も失敗してません。ただ、仕事をしてただけです」

ああ、この人、気づいてないんだな。って、静かに確信しました。

ぜんぶの責任は相手にあって、自分は悪くない。そういう構えのまま、この人は職場を転々としてきたんだな、と。

なんで、彼はどの職場でも嫌われたのか

ここからは、僕なりの見立てです。

この人、たぶん、仕事でミスをして嫌われたわけじゃないと思うんです。本人が言うとおり、大きな失敗はしてないのかもしれない。

じゃあ、なんで、短い期間でどの職場でも嫌われちゃったのか。

僕は、返事や受け答えの「雑さ」だと見てます。これ、うちのスタッフにも話したことがあるんですけど、「指導される側の心構え」っていうのが、あるんですよ。

指導される側が、ちゃんと返事をしない。受け答えが、雑になる。すると、指導する側は、違和感を覚えるんです。

その違和感って、最初は、言葉にできないくらい小さいもの。でも、それが何度も、何度も積み重なると、だんだん「不快感」に変わっていく。

で、不快感を持った相手に対して、人は「この人に、親切丁寧に教えてあげよう」「細かく見てあげよう」とは、思えなくなるんですよ。これ、きれいごとじゃなくて、人間の自然な反応だと思います。

正直に言うと、僕はこの面接の受け答えの時点で、もう小さな不快感を覚えてました。そして、これまでの経験上、面接でこの種の不快感を抱いた相手が、いざ一緒に働きはじめてからそれを払拭してくれたことは、一度もなかったんです。だから僕は、この最初の感覚を、軽く扱わないことにしてます。

本人だけが、気づいてない

ここに、この問題のいちばん怖いところがあります。

本人は、仕事でミスをしてない。だから「なんで僕が悪者にされるんだ」と思ってる。自分の受け答えの雑さが、周りの「教えてあげたい」って気持ちを、少しずつ奪ってることに、まったく気づいてないんです。

なんで、気づけないのか。

それは、返事や挨拶みたいな基本的なことが、まさか原因だなんて、思ってもいないから。

返事や挨拶って、小学校の低学年で習うことじゃないですか。それが、30代、40代になって、自分の仕事人生を左右する原因になってるなんて、想像もしない。「だって、自分はちゃんと仕事をしてるんだから」って。そういう考えになっちゃってる。

だから、永遠に気づけない。そして、また次の職場でも、同じことを繰り返すんです。

チャーシューと味玉がのった、一杯のラーメン

……と、ここまで言うと、こう思う人もいますよね

ここまで書いてきて、僕自身、いくつか反論が浮かびます。せっかくなんで、正直に書いておきます。

ひとつは、「結局、第一印象で人を切り捨ててるだけじゃないの?」って意見。歩き方や雰囲気だけで判断するのは、ただの決めつけじゃないか、と。

でも、切り捨ててるつもりは、ないんです。第一印象は、あくまで入り口。「のっそりしてるな」って感じたのは最初の違和感で、そこで結論は出してない。そのあと質問を重ねて、退職の理由を掘っていくなかで、「ああ、つながったかも」って、ようやく像を結んだんです。第一印象は仮説で、面接は、その仮説が当たってるかを確かめる場。そう思ってます。

もうひとつは、「他責に聞こえる答えにも、ちゃんとした理由があるのでは?」って意見。前の職場が、本当にひどい環境だった可能性は?と。

これは、たしかにそうなんです。本当にパワハラみたいな目に遭った人が、自衛のために「合わなかった」って言うことは、ある。その可能性を、頭から否定するつもりはありません。ただ、その人の一連の答えを聞いてると、どうも「おかしいぞ」と感じる部分があった。ひとつの答えだけなら、僕もこうは判断しない。複数の答えが、同じ方向を指してたんです。

そして最後に、「その基準、あなたの主観でしょ?」って意見。返事が雑かどうかなんて、見る人によって違う、と。

これも、まったくそのとおり。僕は、人より厳しいのかもしれない。ほかの経営者なら気にしない部分を、気にしてるのかもしれません。だからこれは、あくまで「うちの店では、こう見てる」っていう、ひとつの基準にすぎない。そこは、正直に言っておきたいです。

それに、ここまで偉そうに書いてきましたけど、僕の基準が通用するのは、たぶん人と接する商売だからなんです。お客さんの前に立って、仲間と狭い厨房で肩を並べて働く。そういう仕事だから、挨拶や受け答えが、決定的に効いてくる。黙々と一人で精度を突き詰めるような仕事なら、まったく違う基準があるはずです。だからこれは「人を見る正解」じゃなくて、「ラーメン屋をやってる僕の見方」だと受け取ってもらえたら、と思います。

僕が、この経験から学んだこと

僕は、この人を採用しませんでした。今でも、その判断は正しかったと思ってます。

でも、この面接で僕が得たものは、ひとつの「不採用」よりも、ずっと大きいものでした。

人を見るとき、僕らはついつい、経歴やスキルや資格を見ちゃう。でも、本当に大事なのは、もっと根っこにある、小学校で習うような基本の部分なのかもしれない。挨拶、返事、受け答え。そして何より——うまくいかないことがあったときに、その原因を、自分の側にも探せるかどうか。

この「自分にも原因があるかもしれない」って考えられる力こそ、年齢やスキルに関係なく、その人が伸びていけるかどうかを決めるんだと思います。

採用って、お店の未来を左右します。一杯のラーメンの味を守ることと、同じくらい——いや、それ以上に、誰と一緒に働くかは、大事なことなんです。だから僕はこれからも、歩き方や、返事のひとつひとつを、見続けていくんだと思います。